東成イービー東北

Technical Introduction
技術紹介

電子ビーム溶接とは

電子ビーム溶接原理のイメージ

電子ビーム溶接は、溶接対象物そのものを溶融させて接合する融接に分類される溶接工法のひとつになります。原理は、電子銃の中の陰極フィラメントを真空中で加熱することで、熱電子が連続的に放出されます。

この熱電子が、電子銃内の陰極-陽極間にかけられた高電圧(60~150kV)による強力な電場で加速され、ビーム(電子の束)となります。この電子ビームを電磁コイルで収束させて溶接対象物に衝突させると、電子の運動エネルギーは極めて短時間に熱エネルギーに変換されます。そのときに生じる発熱を利用して溶接する工法となります。(図1参照)

電子ビーム溶接の特徴

図2:電子ビーム溶接時の状態

基本的に溶接材料を添加せず、溶接対象物のみを溶融させて接合を行います。そのため溶接強度は、溶接対象物の母材強度に近い値となります。

溶融幅の狭い深溶け込み溶接が可能です。これにより、極小部分の入熱量となるため、熱影響(Heat Affected Zone:HAZ)部が狭く、溶接変形の少ない高精度な溶接が可能となります。(図3、図4参照)

図3:電子ビーム溶接と他の溶接工法との比較、図4:電子ビーム溶接の溶け込み深さ制御

図3:電子ビーム溶接と他の溶接工法との比較、図4:電子ビーム溶接の溶け込み深さ制御

     ※参考:日本溶接協会

  • 高パワー密度熱源であるため、高融点材料であるモリブデン、ジルコニウム、タンタル合金の溶接や、高熱伝導率材料であるアルミ、銅合金の溶接も可能です。
  • 真空中での溶接であるため、溶接対象物の溶接部の酸化と窒化を抑えた溶接や、大気からの汚染がなく清浄な溶接が可能になります。
    ⇒加工雰囲気圧力は、10-3~10-2Paと高真空状態で加工を行います。
  • 全て機械制御のため、最適な溶接条件を確立すれば、信頼性の高い繰り返し溶接が可能となります。作業者による品質のバラツキがありません。
  • 異種金属の溶接が可能です。(表1参照)
S
U
S
6
3
0
S
S
4
0
0
S
T
K
M
1
2


|





C
1
0
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0

















C
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C
2
7
6





1
0
0





4
3
9
H















6
A
I
4
V






SUS304
SUS316L
SUS321
SUS630
コバール
純ニッケル
無酸素銅(C1020)
ベリリウム銅
タンタル
モネル
ニオブ
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純ニッケル
無酸素銅(C1020)
ベリリウム銅
タンタル
モネル
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SUS304
SUS316L
SUS321
SUS630
コバール
純ニッケル
無酸素銅(C1020)
ベリリウム銅
タンタル
モネル
ニオブ

表1:異種金属の溶接性評価表

※材料の組み合わせによっては溶接形状に制限がございます。溶接形状につきましては材料に合わせたご提案が可能です。
※当社の加工実績により溶接性を示したものになります。
※表記にない材料の組み合わせにつきましては、まずはご相談ください!

  • 電子ビーム溶接は、材料と電子ビームが短時間に激しく相互作用を起こすことで、溶融池がキーホール型(鍵穴型)と呼ばれる特徴的な形状となります。その形状に起因して、特有のポロシティと割れが発生します。
  • ポロシティ
    高エネルギー密度の電子ビーム溶接は、一般的に溶け込み深さと溶接ビード幅のアスペクト比が大きいことから、溶融池が不安定になりやすく、雰囲気中あるいは溶融金属から発生するガスがトラップ(閉じ込められて)されて、比較的大型の不定形な空隙(ポロシティ、ブローホール)が発生します。特にアルミ合金は溶融時の粘性が低いことから、溶融現象が不安定になりやすくなります。ガストラップの形態としては、合金中に含まれるマグネシウムや亜鉛、鋼板表面の亜鉛メッキなどの低融点元素がガス化してトラップされる場合があります。それらの対策として、溶融池を安定させ、ガストラップを防ぐために、電子ビームの照射方法の工夫で回避することができます。(図5参照)
  • 割れ
    キーホール型の溶け込み形状であるという形状的な因子と、凝固速度が速いという冶金的な因子から、割れが発生しやすくなります。アルミ合金やNi基超合金の溶接において、熱影響(HAZ)部での液化割れが発生することがあります。それらの対策として、電子ビームの照射方法の工夫で溶融部の入熱を制御することによって、割れを防ぐことができます。主な割れ形状を図6に記します。

図3:電子ビーム溶接と他の溶接工法との比較、図4:電子ビーム溶接の溶け込み深さ制御

図3:電子ビーム溶接と他の溶接工法との比較、図4:電子ビーム溶接の溶け込み深さ制御

電子ビーム溶接のメリット

  • 入熱範囲が狭いため、溶接対象物に与える熱影響が少ない。
    ⇒熱歪みが少ない。
  • 幅が狭く、溶け込みが深い溶接が可能です。
  • 異種金属同士の溶接に対応可能です。
    注:材料の組み合わせにより溶接に適さないものもあります。
  • 真空中の加工により、溶接対象物の酸化、窒化を抑制できます。
  • 薄板から厚板まで溶接可能です。
  • 溶接棒(肉盛り溶接)が不要で、材質変化が少ない。
  • 機械制御された溶接で、高信頼性の繰り返し生産が可能です。
  • 高融点材料、活性金属、熱伝導率の高い材料でも溶接可能です。

電子ビーム溶接のデメリット

  • 磁性のある材料は電子ビームが曲がるため溶接ができません。磁性のある材料は、脱磁をする必要があります。
    注:状況によっては、脱磁後でも加工ができない場合があります
  • 真空状態で加工するため、真空室(真空チャンバ)の大きさにより製品サイズに制限があります。
  • 真空引きと大気開放に時間が掛かります。

電子ビーム溶接の主な用途

  • 他の溶接方法では困難な材料
    ⇒タングステン、タンタルなどの高融点材料
    ⇒銅+ステンレス、鉄+ステンレスなどの異種金属材料
    ⇒アルミ、銅などの熱伝導率の高い材料
  • 溶接時の酸化が懸念される材料
    ⇒ニオブ、チタンなどの活性金属
  • 極細溶接ビードで低歪み溶接が可能
    ⇒圧力センサー、ダイヤフラム部品
  • 高速で低歪み溶接が可能
    ⇒GEARなどの回転部品
  • 高精度で低歪み溶接が可能 ⇒航空、宇宙部品
  • 気密性が高く深溶け込み溶接が可能
    ⇒真空チャンバー、圧力タンクなどの大型構造物品
    ⇒水冷板(バッキングプレート)などの冷却部品

溶接・接合の加工実績

  • 製品
    パイプ、水冷バッキングプレート、圧力センサー、フランジ、フィルター、電池ケース、インパクター(はやぶさ2搭載製品)、ギア、医療器具、ダイヤフラム、真空系部品 他
  • 材質
    アルミ、チタン、銅、鉄、ステンレス、ニッケル合金、ハステロイ、マグネシウム 他
  • 産業分野
    半導体、航空・宇宙、自動車、鉄道、医療、工作機械、発電、プラント、防衛、産学官 他

お問合せ

  • お問合わせ先:東成イービー東北㈱ TEL:024(963)2411 FAX:024(963)0455
  • 溶接でお困りの方は、まずは弊社までお気軽にお問合わせ下さい!
  • 加工までの流れ:図面確認(スケッチでも可)⇒溶接可否検討⇒見積書作成⇒ご注文

参考文献